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フランス南西部からスペイン北部にまたがるバスク地方の小さな村で、八百屋を開いた日本人女性がいる。ソニーの元エンジニアで、デザイナーという異色の経歴を持つその女性のもとを、仏紙「ル・モンド」が訪ねた。 カトウ・アイがゲタリー村を知ったのは2006年の冬だった。彼女に言わせると、そこは「バスク地方の海岸沿いでいちばん小さな村」である。大西洋を見下ろすように広がるこの小さな港町は、かつて捕鯨で栄えた。海辺に鉄道の小さな駅があり、その風景が故郷の日本を思い起こさせた。 カトウが当時のパートナーだった写真家のセドリック・ビエルとともにこの地に移り住んだのは、その数年後だった。サーファーの楽園としても知られるこの地に立ち並ぶ家々は、白い外壁に映える赤い木組みの窓枠と雨戸が備わるのが特色である。 最初に住んだ家は、海の近くだった。ある日、郵便局に行こうと坂道を上っている途中、一軒の売り家が目に留まった。
矛盾のなかで生きるということ リーは、子供たちが亡くなった後、すぐ仕事に戻った。 「人々は悲しむ母親が特定のふるまいをするように期待しますが、私は他人の作り出した物語に従って生きることはできません。自分をさらけ出し、弱さを見せ、成長を示す。そんなことはしたくないのです」 リーと話をしていて、もっとも驚いたのは、彼女が互いに相容れないように見える2つの現実のなかで生きていることだ。 一つは、彼女が「深淵」と呼ぶ荒廃した状態に生きている現実。もう一つは、仕事、友人関係、結婚生活において、小さな瞬間に喜びを見出している現実だ。 「痛みと共に生きることは可能です。日々の生活を送り、庭の手入れをしたり、音楽を聴いたりしますが、そのあいだも痛みについて考えています」 息子たちの物はいまも動かせない ヴィンセントとジェームズは、リーの静かで広々とした家に、いまも「存在」している。リビングルームから続く明
2人とも同じ方法で… 2024年2月のある金曜日の夜、米ニュージャージー州プリンストンにあるイーユン・リーの自宅に4人の警察官が現れた。そのうちの1人は刑事であり、「何と申し上げていいのか言葉が見つかりません」と言った瞬間、彼女はリビングの椅子に倒れ込み、夫を呼んだ。 リーは、彼らが伝えようとする悲惨な知らせの気配をすでに感じとっていたが、これが現実に起きていることなのか理解できなかった。 刑事は、プリンストン大学に通っていたリーの息子ジェームズが、キャンパスの近くで列車に轢かれて死亡したと告げた。 彼らは、ジェームズの死の経緯については調査中だと説明し、自殺だとは断定しなかった。しかし、リーと夫はそれが事故ではないと悟った──ジェームズは、兄と同じ方法で人生を終わらせることを選んだのだ。 2017年、ジェームズの兄ヴィンセントは、16歳のときに列車に飛び込み自ら命を絶った。その夜、リーが
増員の必要性 ロシアの脅威の高まりと、米国の欧州離れによって、欧州の安全保障の状況は緊迫している。各国は独自の兵力の増強を目指すが、人員と装備が不足している国も多い。 独紙「フランクフルター・ルントシャウ」によると、ドイツの連邦軍では5〜6万人の兵士が不足しているという。 これだけの人員を増やすには自由志願制では不可能であるとして、与野党の政治家のなかには、2011年に停止された徴兵制の復活を主張する人もいる。 政府は現時点で徴兵制復活の方針を決定していない。しかし国防相は、2025年から開始される新たな志願制の兵役制度で充分な人数が集まらなければ、徴兵制の検討もやむなしという考えを示す。 政治の世界では多数派になりつつある「徴兵制復活」。だが、一般の国民はどう考えているのか。独紙「ビルト」が世論調査機関INSAに委託しておこなった最新の調査では、徴兵制をめぐる不都合な現実が浮き彫りになっ
激化するイスラエルとイランの戦争はどこへ向かうのか? 英紙「フィナンシャル・タイムズ」はいくつかのシナリオを挙げたうえで、窮地に陥ったイランが体制の生き残りをかけて核兵器を使用する可能性はあると指摘する。 核や生物・化学兵器などの「非通常兵器」 戦争とは予測不能なものだ。イスラエルとイランでさえ、現在の紛争がどのような結末を迎えるかわかっていない。 とはいえ、考慮すべき先例はある。一つ目は1967年の第三次中東戦争だ。イスラエル軍がエジプト、シリア、ヨルダンに奇襲攻撃をかけ、わずか6日間で圧勝したことから「六日戦争」と呼ばれる。 二つ目は2003年に始まったイラク戦争だ。イラクが大量破壊兵器を保有していると米国が主張して始まった戦争だが、背景にはフセイン政権の転覆という野望があった。 そして第三のシナリオが、イランが非正規の手段や非通常兵器を使ってイスラエルと西側諸国に反撃するというものだ
知られざる「ニセイ」部隊 80年前、アバ・ノールは、ユダヤ人などの収容者ら数千人が、ナチスの強制収容所から数日間、強制的に歩かされた悪名高き「ダッハウ死の行進」のなかにいた。食事も水もなく、凍てつくような気温のなか、多くが命を落とした。 8日目の夜。疲れ切った収容者たちの上に雪が降り積もる傍ら、急速に迫りくる敵軍の到来を恐れ、監視の親衛隊が消え去った。 翌朝、米軍の兵士があらわれた。だが、その顔はノールが以前に見たものとは違った。彼らは日系米国人だったのだ。 彼らは米国で差別や疑念に直面しながらも、ヨーロッパでヒトラーの軍隊と戦った名高い部隊のメンバーである。この日系人たちのなかには、家族を米国西海岸の強制収容所に送られた人もいた。 「私たちにとって、彼らは天の使いです」。97歳になり、現在はイスラエルに住むノールは語る。 全員が日系2世である522野戦砲兵大隊の物語は有名ではないものの、
世界幸福度ランキングでは上位は北欧の国が占めているが、近年、研究者たちが注目している「繁栄度(flourishing)」ならどうなるか? 日本を含む世界22ヵ国を対象にした5年にわたる調査研究の初期の結果から見えてきた「驚きの傾向」とは──。 多次元的なウェルビーイング 良い人生を送るとはどういうことか? 何世紀もの間、この問いに哲学者や科学者、そしてさまざまな文化圏の人々が答えようとしてきた。それぞれの伝統によって解釈は異なるものの、誰もが同意する点がある。 真に良い人生とは、一時的な満足感や幸福感を超えて、人生のあらゆる側面で充実し、人間として成長できることを意味するのだ。 研究者たちは近年、「繁栄(flourishing)」という概念に焦点を当てている。これは単なる幸福や成功ではなく、前向きな感情やエンゲージメント(関与)、人間関係、人生の意味や達成感を含めた多次元的なウェルビーイン
USスチール買収をめぐる日鉄と米政府との交渉は、トランプ政権に「黄金株」を譲渡することで決着した。その交渉の内幕と合意の具体的な内容について、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が次のように伝えている。 日鉄は「永続的」の条件を泣く泣くのんだ 日本製鉄はUSスチールの買収をトランプ政権に認めてもらうため、米政府に「黄金株」を与えるという異例の取り決めに合意した。 これにより、ドナルド・トランプ大統領は買収後のUSスチールに対し、取締役の任命権から企業活動の承認まで多大な影響力を持つことになる。その権限は将来の米大統領にも永続的に引き継がれ、この合意は外国企業による対米投資の本質を変える可能性がある。
サプライチェーンが世界貿易戦争の新たな戦場に 米中貿易戦争における最近の小競り合いから得られる重要な教訓は、サプライチェーン(供給網)を武器化する時代が到来したということだ。 米中は先週、超大国の外交戦略において最も強力な新しい手段である輸出規制を巡る対立に終止符を打った。数ヵ月に及ぶ貿易戦争の一つの戦略として、両国はレアアース(希土類)や半導体技術などの輸出を制限し、優位性を得ようとしていた。 そのため、米中の交渉担当者がロンドンで貿易戦争の「休戦」を協議した際、重点は関税や市場へのアクセスなどの標準的な貿易交渉の議題よりも、サプライチェーン規制の緩和に当てられた。 この変化は、米中の対立が世界経済の支配権を巡る争いに変化していることを表している。両国は地政学的な目標を追求するためにこうした手段をこれまでより広く使用する可能性があり、それは企業や投資家にとって、すでに関税で不透明になって
プレミアム会員にご登録いただくと、クーリエ・ジャポンの「今月の本棚」コーナーで、著名人の推薦する書籍を毎月3冊、読み放題でお楽しみいただけます。この記事は、今月推薦された書籍の抜粋記事です。 「進化が生き物を作った」という命題は、結果(現在)から原因(過去)まで遡った考え方で、ある種のサクセスストーリーとなります。 しかし、実際には目的(ゴール)があって進化したわけではありません。多様な「種のプール」があって、それらのほとんどが絶滅、つまり死んでくれたおかげで、たまたま生き残った「生き残り」が進化という形で残っているだけです。 では、現在生き残っている生き物は、そもそも「どうやって」死ぬのでしょうか。生き物が「なぜ」死ぬのかという問いに迫るために、進化の本質である生き物の選択──つまり「死」そのもの、生物によって異なる死という現象について考えてみます。 食べられて死ぬという死に方 生き物の
もう一度、バラを手に入れる シャムサ・シャラウェ(32)は、TikTokでほとんどの人が忌避する話題について語り有名になった。カミソリでバラのやわらかい花びらを切り落としながら、6歳のときに受けた女性器切除の経験を、何百万もの視聴者に語ったのだ。彼女が生まれ育ったソマリアでは、ほぼすべての女性が女性器切除を受けている。 2023年、シャラウェは再び「バラ」を育てた。ドイツの病院で、女性器再建手術を受けたのだ。 バラの花を用いて女性器切除について説明するシャムサ・シャラウェ シャラウェは現在、英国に住みながら、反女性器切除の活動をしている。手術の前夜、彼女は初めて訪れる国で一人、恐怖を感じていた。手術で死んでしまうかもしれない。その場合、9歳の娘はどうなるのか? ホテルのベッドに横たわりながら、彼女は娘のサラのために動画を撮った。彼女をどれだけ愛しているのか伝え、自分が手術を受ける理由を説明
子供が学業など何らかの壁にぶち当たったとき、子供の好きなことを一時的にでも取り上げ、目の前の課題に集中させる親は少なくない。しかし、このやり方は長期的にも短期的にも、あまり良い結果をもたらさないという。子供が自分の力で壁を乗り越えられるようにするには、親はどうすればよいのだろうか。 「成績が上がるまで、◯◯を休ませるべき?」 心配そうな表情を浮かべた母親が、私のオフィスのソファに座っている。最近、夫が解雇され、家庭内に緊張が走り、15歳になる息子の成績も下がりはじめたという。 「息子はレスリングにしか関心がないみたいで」と彼女は打ち明ける。早朝5時に起きて練習に行くのに、宿題には手をつけない。「成績が上がるまで、練習を休ませようかと考えているんです」 その気持ちは痛いほどよくわかる。私自身、教育者として、また3人の子を持つ親として、この30年間、同じような会話を幾度となく交わしてきたからだ
ビジネスの学位を活かし、カリフォルニア州サンタローザで父と小さな栄養飲料会社を経営しながら兄と私を育てていた母は、いつだって準備を怠らなかった。昼はマーケティングのスローガンを作り、流通戦略や5ヵ年計画を立てる。夜には泡風呂を用意し、布団や枕で秘密基地を作り、寝かしつけるための物語を用意してくれる。 母と私は2月生まれで誕生日が同じだ。両親は毎年、手の込んだパーティーを用意してくれたものだ。母は一週間もかけて折り紙の魚の群れを作り、ダイニングルームの天井を覆うティッシュペーパー製の海藻のなかを泳がせたこともある。 私が3歳のとき、進行性の乳がんであると判明すると、母はすぐにありとあらゆる治療法を調べて準備を始めた。一般的な治療法、代替療法、お祈り。彼女は抗がん剤とニンジンジュースで体を満たした。 真っ直ぐな黒髪を後ろで結い、紙の山に囲まれながら楕円形のダイニングテーブルに何時間も座って、彼
2015年、米「ニューヨーク・タイムズ」紙に掲載された「恋が芽生える36の質問」を実践した作家のコラムが話題を呼んだ。決まった質問をするだけで、「初対面の相手とも両思いになれる」というこの心理学的実験をバーでおこない、その結果は大成功を収めたが、その後彼らはどうなったのだろうか? 同紙が10年後の2人を追った。 「恋が芽生える36の質問」について知っている読者は、マンディ・レン・カトロン(44)とマーク・ジャヌーズ・ボンディラ(49)が初めてデートしたときの話をすでにご存知かもしれない。 カトロンは2015年、「ニューヨーク・タイムズ」紙のコラム「モダン・ラブ」に「誰かと恋に落ちたければこれをやってみて」と題したエッセイを寄稿し、当時知り合ったボンディラと「ロマンティックな恋愛を育むために考案された」この科学的実験を自分たちでおこなった話を綴った。 この「36の質問」とは、心理学者アーサー
最新のニュースに登場した時事英語を紹介するこのコーナーでは、世界のニュースに出てくるキーワードを学ぶと同時に、ビジネスの場や日常会話のなかでも役立つ単語やフレーズを取り上げていきます。1日1フレーズずつクイズ感覚で学び、英語に触れる習慣をつくっていきましょう。語彙力の向上には、日々の積み重ねが大事です。 今日の時事英語 2025年6月11日(水)の「ロサンゼルス・タイムズ」に次の一文がありました。 Following four days of escalating protests that defaced landmarks and damaged property in downtown L.A., Mayor Karen Bass imposed a regional curfew on Tuesday in an effort to restore order.
反ユダヤ主義の源流には、ナザレのイエスが十字架刑に処されたのはユダヤ人のせいだとするキリスト教の思想がある。しかしイエスにその刑を科したのは、ローマ総督のポンテオ・ピラトだと新約聖書には記されている。その責任転嫁はなぜ起こったのか。米国の歴史学者ナサナエル・アンドレードが、その経緯をひもとく。 ローマ帝国のユダヤ総督ポンテオ・ピラトが、ナザレのイエスをローマ兵たちに殺害させた──。イエスの復活物語で、単純明快な場面だ。ピラトがイエスに科したのは、ローマの裁判官が社会的な破壊分子に科すことが多かった、十字架刑だった。 新約聖書にはそう書かれている。キリスト教で最重要な信仰表明のひとつ「ニケア信条」(紀元325年)でも、イエスは「ポンティオ・ピラトのもとで、わたしたちのために十字架につけられ」とある(訳は教派によって異なる)。 イエス・キリストの名で伝道した最初の人物である使徒パウロの証言が新
「犬の散歩はれっきとした犯罪だ」。イラン東部の街、マシュハド市の検察官は報道陣にそう語った。なぜイランではここまで「犬の散歩」への取り締まりが強化されているのだろうか? 「イラン当局は、公共の場所での犬の散歩禁止令や、自家用車への犬の乗車規制に対する取り締まりを複数の都市で強化している」。ニュースサイト「イランワイヤー」はそう報じた。 2019年以降、首都テヘランではすでに同様の条例が施行されていた。だが、今回は「少なくとも18の他の都市も影響を受けている」と英放送局「BBC」は伝え、その背景を説明している。 BBCによると、イランでは「1979年の革命以来、犬を飼うことが忌み嫌われてきた。当局は犬を『不浄』なものであり、西洋文化の影響を受け継ぐものとみなしている」という。犬の飼育自体を禁止する法律はないが、地域の条例に基づき、警察はペットを連れて歩いている人を逮捕することができる。 「多
世界各国で盗まれたiPhoneが向かう先、中国の深圳。この深圳でiPhoneが取引されるビルに英紙の記者が潜入した。どんなビジネスがおこなわれているのだろうか。 世界中で盗まれているiPhone 日本のファストフード店では、席をとるためにテーブルにiPhoneを置いて注文しに行く人を見かける。この光景は海外ではあり得ない。ロンドンやニューヨークなど海外の大都市では油断をすればすぐにiPhoneが盗まれる。 ロンドンで食事していた人がテーブルの上にiPhoneを置いていた。店員からメニューを渡された後、テーブルを確認するとあったはずのiPhoneがない。店員のふりをした人が、メニューでiPhoneを覆い隠し、その隙に盗んで逃げていく。そんな事件も珍しくないほどだ。 英放送局「BBC」によると、英国内でiPhoneの窃盗は年間7万8000件にのぼった。一日に200台以上盗まれている計算だ。単純
米国のドナルド・トランプ大統領の場当たり的な外交政策を読み解くうえで、鍵となる概念は何かあるのだろうか。またその外交政策はこれまでの政権と比べて、どのような点が根本的に違うのか。元朝日新聞政治部長の薬師寺克行氏が解説する。 国際社会の秩序が大きく揺らぎ、「大国間競争時代」あるいは「多極化時代」が到来したと言われて久しい。 冷戦後に米国が一極支配していた時代はすでに遠い過去のものとなり、中国の台頭やロシアの拡張主義がリベラルな国際協調主義を揺るがしている。 そしていまや、2期目のドナルド・トランプ米大統領が打ち出す対外政策に世界中が振り回されており、混乱を極める国際秩序の行き先はまったく見通せない。 政権発足から約半年、「トランプ外交」の特徴がはっきりしてきた。まず強烈な被害者意識である。米国は世界中に軍隊を派遣し、地域の平和と安定に貢献してきたが、軍事費が膨れあがり、財政赤字につながったと
インド西部アーメダバードの国際空港から離陸した直後のエア・インディア機が墜落した事故では、242人の乗客・乗務員のうち200人以上の死亡が確認されており、これは過去10年間で世界最悪の航空事故だと地元誌「インディア・トゥデイ」などが報じている。 また、インディア・トゥデイは別の記事で、乗客1人の生存を確認と報道。アーメダバードの警察長官は通信社ANIに対して、「11A席に座っていた一人の生存者を確認した」と語ったと報じられている。11A席はエコノミークラスの最前列で、翼より前方の非常ドアに最も近い座席だった。
この記事は、世界的なベストセラーとなった『21世紀の資本』の著者で、フランスの経済学者であるトマ・ピケティによる連載「新しい“眼”で世界を見よう」の最新回です。 ハイチの経済発展を妨げた奴隷の賠償金 いまから200年前の1825年、フランスがハイチに賠償金の支払いを課した。名目は、奴隷という財産を失った奴隷の所有者たちに対する損害賠償だった。 ハイチは国家としてあまりにも脆弱だったゆえ、この負債の支払いに1950年代まであえぎ続けた。ハイチの発展を著しく妨げたこの債務の支払いこそ、同国がいま世界で最も貧しい国の一つになっている大きな要因である。 フランスはその間、王政、帝政、共和政と政体が変わったが、どの政体のときも、ハイチからこのお金を当たり前のように受け取り続け、何の良心の呵責を覚えることもなく、そのお金を預金供託金庫に入れてきた。これらの事実は、記録がしっかり残っており、異論をはさむ
関税措置によって世界を振り回しているトランプ大統領。彼の政策は米国経済を悪化させる一方、その孤立主義は、多国間的なグローバル化を立て直すチャンスとなり得る──ノーベル経済学賞の受賞者、ジョセフ・スティグリッツはそう指摘する。 最悪のタイミングで関税を課した ドナルド・トランプのもとで、米国があれよあれよという間に史上最大のタックスヘイブンへと変わりつつある。 米国の財務省が、企業の実質的なオーナーを開示させる透明性確保の枠組みを、取りやめにする指示を出しただけでない。米政権は、国連の国際租税協力枠組条約の交渉から離脱し、海外腐敗行為防止法も執行しようとしない。さらには暗号資産の大規模な規制緩和までおこなおうとしている。 これらの措置は、過去250年にわたって米国の制度内に組み込まれてきた安全装置の破壊を狙う戦略の一環なのだろう。トランプ政権は、国際条約を破り、利益相反を無視し、権力の抑制と
中国は2022年以降、人口が3年連続で減少している。写真は中国・安徽省の産院 Photo: Feature China / Getty Images 人口の減少と高齢化は、ここ数年来の中国政権の大きな懸念事項の一つだ。だが、最近の調査報告書は、さらなる懸念材料をそこに加えた。「中国の女子大学生の10人に8人以上が、子供を必要としていない」ことが明らかになったのだ。 調査は2024年3月から6月にかけて、中国科学院心理学研究所によっておこなわれた。シンガポール紙「聯合早報」は、研究者らが31の省の5万5781人の学生を調査したと伝え、その結果について「18歳から24歳の若年層は恋愛、結婚、出産への意欲が低い」とまとめる。 さらに、同じ調査で、男女合わせて52%近くが結婚を重視していないことが明らかになった。60%近くが子供を持つことは「重要ではない」と回答している。この傾向は女子学生の間で顕
過剰な移民摘発への抗議がロサンゼルスで拡大し、トランプ大統領は州知事からの要請もないのに軍隊を送り込んだ。この前代未聞の対応は「2026年に迫った中間選挙の結果を意のままにするための予行練習だ」と米誌は指摘する。 「青い州」への支配力を強める ロサンゼルスで移民摘発に対する抗議運動が激化したことを受け、ドナルド・トランプ大統領は6月7日、これを鎮圧するためとして州兵の派遣を命じた。さらにピート・ヘグセス国防長官は、海兵隊も動員してトランプに従う用意があると宣言した。 これらの脅しは芝居がかっていて無意味に見える。カリフォルニア州には、逮捕権を持つ法執行機関職員が7万5000人以上もいる。ロサンゼルス市警だけでも9000人近い制服警官がいるのだ。彼らは一部暴徒化しているデモ隊に余裕で対処できるだろう。 もしカリフォルニア州がデモ隊に圧倒されていると感じたら、連邦政府に支援を要請すればいいだけ
英紙「フィナンシャル・タイムズ」の記者がランチを共にしながらインタビューする人気連載に、OpenAIを率いるサム・アルトマンが登場。ライバル企業との開発競争からAIに支配される未来、イーロン・マスクとの対立まで、野心みなぎらせるCEOにじっくり聞いた。 アルトマンの農場で彼の手料理 サム・アルトマン(40)がシリコンバレーの喧騒から逃れる先は、ナパバレーのブドウ畑に覆われた丘陵地帯にある広大な農場だ。私は、幅の広い出窓がある家のオープンキッチンにアルトマンの姿を見つけると、そのまま敷地内に入った。 彼の当惑した表情を見るに、私が現れるとは思っていなかったようだ。実際、私は約束より1時間ほど早く到着していた。それでもChatGPTの生みの親である彼は、会議を切り上げて、庭にいる私のところまで来てくれた。 本紙のこの連載のために、アルトマンは彼が選ぶレストランで会う代わりに、農場の自宅でシンプ
もちろん、高度な「読み」の技術を身につけたらそれはすてきなことだが、みんながみんなそんな専門的な読者である必要はないはずだ。 もっと素朴に一字一句のありさまをじっとながめて、気にいったところをくりかえし読めばいいと思う。わたしはふだん自分のたのしみのために詩を読むときは、そのように読んでいる。 日本の現代詩はとても高度に発達した表現形式だ。「こういう部分にこういう技巧をこらしているのは、世界文学のなかでも最尖端だろう」「こんな表現に行きついてしまっているのは、世界じゅうの書き手のなかでも、現在はこの詩人だけかもしれない」と思う部分すらある。 だから、やさしくはない。かなりの嚙みごたえがあるのはあたりまえだ。 どんな芸術分野でも、もっとも尖端的なものは、大衆的ではない。多くの人にとって、なんだか理解しにくいものであるのがふつうだ。 でも、そういう最尖端作品を味わうやり方は、ふつうの人が想像し
日本の軽トラや軽自動車が便利だとして米国で人気を集めている一方で、米国の安全規制当局は、そう簡単には一般道の走行を認めてくれないようだ。どうしても軽トラを運転したいと願う米国人が、執念深く、軽トラを運転するまでの長い道のりを明かした。 日本の軽トラを買ってみようか… 愛車フォードF-150(2007年製ピックアップトラック)が米ニューイングランド地方を走り続けた末に塩害でやられてしまうと、私はジレンマに陥った。代わりを探しても、見つかるのはカーゴ(荷台)よりエゴ(自己顕示欲)のほうが大きいトラックばかりだった。 エンジンのデカい4ドア車なのに、荷台は小さい。最新モデルを見ると、その価格は2013年に6年落ちだったフォードF-150を購入したときに支払った額の5倍もする。
しかし、「むかしは詩を読んでいて、1980年代ごろまでの詩人の名前は知っているけれども、今世紀に入って出版された詩集は手にとったことがない」という人は、きっとそれより多いと思う。 1960年代には、出版社ではない企業の入社試験に、その年のH氏賞(詩集にあたえられる新人賞)の受賞者を選択させる問題が出ることもあったそうだ。そのころ、同時代の詩は、一般常識の一部でありえたのだろう。いまでは考えられないことである。 わたしが詩を書きはじめた1980年代は、それでもまだ、詩人や詩の世界は元気だった。詩の注文は一般の新聞や雑誌からもたびたびあったし、詩集を出せば、人気のある女性ファッション誌にも書評が出た(詩を「おしゃれなもののひとつ」ととらえてくれたのだと思う)。 大企業の社内報や顧客向けのPR誌などが詩人に詩を書かせて掲載するのも、ごくふつうのことだった。そのころわたしがよく注文をうけて詩を書い
①ガザの危機的状況と米国の言論空間 ガザ地区では、支援物資が充分に行き届かず、子供を含む数十万人の人々が飢餓状態に直面している。 しかし米国では、何の罪もない民間人を支援するべきだと著名人が発言するだけで、大炎上するケースが増えている。 パレスチナ以外の場所について「子供を守ろう」という発言をしても、何ら問題にならない。それが「ガザ」や「パレスチナ」という言葉が出た瞬間、いまの米国では中立性が疑われ、「反ユダヤ主義」のレッテルを貼られる。 このことは、米国の言論空間がいかに歪んでいるかを示している。
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